健康な住宅ってどこをみれば良いのでしょうか。 なかなか簡単にはいかないかもしれませんが、人が触れることが出来る部分にどれくらい天然由来の材料を使っているか、ではないかと思います。
床壁天井、家具等の表面の材料を仕上げ材と呼びます。 仕上げ材は、いつも人が触れる空気と同じ空気に触れていますので、その材料に化学物質が多く入っていれば、室内空気も当然汚染されます。 桧の無垢板フローリングに杉板張りの壁の空間は、強烈な接着剤や薬品が多く入った塗料を使わない限り、木の良い香りに包まれた部屋になります。
部屋の中の臭いや空気は、ずっとその中にいると慣れてしまい、分からなくなってしまいます。 だからこそ、悪い空気をつくり出すものは使用したくないですね。
仕上げに使われる材料で、広い面積を占める部分は、床、壁、天井です。 通常、フローリング材と呼ばれる床材には、無垢板のものと、合板のものがあります。 合板フローリングと言っても、見た目は無垢板のフローリングと区別がつきません。 12mmか15mmの厚さのものが一般的ですが、表面の仕上げ面には、薄くスライスされた無垢板が貼り付けてありますので、見た目は美しい木目で、きれいに塗装されている床材なのです。 しかし実際は、表面の薄い無垢板の厚みは、1mm以下。 物によっては、0.3mmほどしかありません。 つまり、15mm中、14.7mmはベニア板です。
この合板フローリング、機能面では多くの利点があります。 床暖房によりガンガン暖めて乾燥しても縮みません。 キャスター付きのイスを使ってもキズ一つ付きません。 醤油や絵の具をこぼしても、きれいにふき取れますし、ワックスを掛ける必要も全くなく、10年経ってもピカピカのままです。
逆に言いますと、無垢板の床材は、床暖で縮み、板同士の継ぎ目が開いてきますし、キャスターや犬猫ペットでキズが付き、醤油や油のシミも残りますし、水拭きやワックス掛けのメンテナンスも必要です。
最近では印刷技術の発達により、表面のたった0.3mmの無垢板までも
使用されなくなった商品もあります。 木目や板表面のキズ、木の凹凸まで印刷により再現された、完全工業製品の「木材」ではないフローリング材まで普及しています。 「木」っぽさを出すために、わざわざ表面の凹みやザラザラ感まで表現してあるため、大工が見ても本物か偽物か、区別が付きません。 ノコギリで切ってみて、はじめて印刷だったのか、と分かるほどの出来です。
このような技術による印刷木材は、天井板や窓の四方に付いている枠材、ドアなど建具の表面、カウンター材や家具等、様々な場所に使われています。 一昔前の印刷商品は、数年経つと色あせてきて、みっともなくなるものがほとんどでしたが、この頃の商品はUVカット技術も同時に進歩し、いつまでもきれいなままなのだそうです。
ハウスメーカーや多くの工務店がこの様な新建材を使う利点は、何百棟、何千棟と繰り返し建てても、同じ品質と同じ出来映えを再現できることや、反ったり曲がったりしないために、クレームも少なく、職人の技術も必要とされない家づくりが出来ることにあります。
ベテランの職人を必要としない家づくりが可能なため、一番費用がかかってしまう人工(にんく:人件費)を抑えることもできます。 家を構成する大量の材料も、家一軒分、商社や工場からまとめて仕入れることができます。 こうしてつくる家ですから、安く作ることが可能となるのです。
こういった新建材を使ってつくる家づくりは、一昔前はハウスメーカーの専売特許でした。 しかし、現在ではどこの工務店さんでも出来る作り方になっています。 目利きの大工さんが、今から建てる家の材料を材木問屋に仕入れに行き、自宅の加工場で刻む、という家づくりはほとんどやらなくなりました。
図面をプレカット工場に出し、プレカット工場でオートメーションで機械加工された輸入材が、数週間後にラッピングされて現場に届く、という家づくりが主流です。 仕上げ材料も、既製品を商社や材料屋さん、場合によってはネットで買うことも多くなってきました。
実を伴わないものづくりが浸透し、人々の暮らしから遠ざかってしまっているのは、都会の暮らしだけではなく、作り手の側にも浸透してきているのではないかと感じます。
楽なことずくめの近代の家づくりですが、昔ながらの作り方や、材料に対して太刀打ちできない重要なことがあります。 「化学物質」を使わなければ、ほとんどの新建材は作れないことです。
虫が寄りもしないきれいなピカピカの果物や野菜と、虫食いだらけで歪んだ、見た目は美しいとは言えない果物や野菜。 どちらが美味しく、健康に良いでしょうか? 家づくりにも、同じ要素が含まれているのではないかと思います。