壁って何で出来ているのでしょうか?
普通、深く考えるようなことはないと思います。 壁の表面がどのような素材なのか、どんな雰囲気なのかは、部屋のイメージを大きく左右するので気になるかもしれません。 しかしここで取り上げたいのは、その中の話。 下地に何が使われているかを考えたいと思います。
昔の家は、柱に何かを直接張ったり、塗ったりしていました。 大量流通時代に入る前は、家はその土地にあるもので作ることが原則でしたので、森林に囲まれた日本では、必然的に山にあるものがその材料になります。 木をスライスした板。 薄いものや厚いものによって使い方が異なります。 丸太そのものを使うこともあります。 屋根の下地には、木の表皮を使うこともあります。 土も土壁として使います。 石の文化が主流のヨーロッパでは石をそのまま積み上げて壁にする使い方をしました。 私たち日本人は加工して使いました。 石灰岩から作られるのが漆喰(しっくい)です。 漆喰の白壁は、日本中で見られる典型的な素材です。 漆喰の中には、石灰だけではなく、ノリの成分として使う海藻、つなぎの成分として使う川の砂、ひび割れ防止や強度を出す成分として使う、麻やわら。 山、海、川、里、と人々の暮らしと共にある素材を集め加工し、作られている自然の建築材料です。 最近では珪藻土というのも良く聞く材料です。 その名の通りこれも土。
このような材料に共通しているのは天然成分の自然素材であり、日本人は長い歴史の中で自然と共に暮らす多くの術を持っていたことが分かります。 元来、自然と共に暮らしていた私たち日本民族ですが、ここに来て大きく変わってしまいました。 その原因となる素材が石油です。 石油を加工してつくる素材が、この数十年の間、暮らしの中に浸透してきました。 家づくりの長い歴史で考えると、ほんの一瞬のことですが、石油由来の材料が多く幅を利かせています。
石油製品の代表的なものが、ビニールやプラスチック、液体状のものを固める樹脂製品です。 ビニール壁紙は紙ではなくビニールですし、ビニールクロスは布という意味のクロスではなく、ビニールです。 粉末や粒々の物を固める樹脂による製品も、歴史的に見ると新しい素材です。 おがくずを固めたMDF合板。 本棚や食器棚、テーブルやシステムキッチン等、家の中にあふれている素材です。 2~3cm大の木くずを集めて固めたチップボードという材料もあります。 木くずを固い板にするには、それを固める強力なノリが必要となり、そのノリの成分が工業的なものになります。 初期のチップボードは梱包材等に使われていました。 その内、家具の裏側や、スピーカーの箱の中等、見えないところに使われ、だんだんと家本体にまで使われるようになり、今では仕上げ材として表面に使われていることまであります。
おがくずや木くずを固めるまではいかない物として、合板があります。 ベニア板と言われるものも同じ加工方法の材料です。 大根を和包丁でくるくると表面だけを長く剥くかつら剥きの要領で、丸太を薄くぺらぺらの紙の様な素材にします。 1~2mmの厚さに剥かれたシートを、繊維方向が交互に直角になるように重ね、ノリで固めます。 壁に使われる物は、強度の高いノリで固められた構造用合板といわれる板で、12mmや15mmの厚さの物が主流です。 これも石油製品であるノリの技術により生まれた新建材で、昔は無かったものです。 厚みが1cm以上ある板をノリで貼り合わせた、集成材という板もあり、厚みや巾を自由に作ることが出来るため、柱や梁にまで多用されるようになりました。
このような石油由来の技術を使った材料は、同じ品質、同じ強度で大量に作ることが出来ます。 性能の差や強度のばらつきが少ないため、あらゆるところに使われるようになりました。 そのため、値段がどんどんと安くなり、新建材を使えば使うほど安い家づくりが出来るようになりました。 その結果、無垢の木を全く使わなくても家を作ることが出来るようになり、その上、安く作ることができるという時代になったのです。
安く作った家が良い家なのかどうか、表面的なことだけで判断してはいけません。 そこには大きな裏、危険が潜んでいます。
あなたの家族のための、和み安らぐ空間であるはずの家ですが、材料の選択を間違えてしまうと、家族をむしばんでしまう空間にもなり得ます。
値段だけを判断材料とするのではなく、どんな材料で作られている家なのかにも少し注目することが必要な時代なのではないかと思います。