このところ新しい勉強会に毎月参加しています。
まじめな?!建築士は数カ月ごとに講習会や勉強会があるのですが、このところの最重要事項は「省エネ設計」。
テレビCMでもエネルギー自給住宅、創エネ住宅、ゼロエネルギー等の言葉を良く耳にしますが、その中身はというと国が定めた建築に関わる法律に起因します。
これからの家づくりを理解するために、ちょっと法律の話を。
2015年(H27年)に建築物の省エネ性能の向上を目的とした「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が制定されました。 当初は大きな建物だけに限って、国が定めた省エネ基準に適合させた建物にしなければならなかっただけでしたが、だんだんと中規模も、小規模も、と省エネ基準への適合が、段階的に義務化されてきました。 そしてとうとう2020年(H32年)には、住宅を含む全ての新築の建物に対して義務化が実施されることになりました。
国土交通相からの工程表によると、赤丸部分が示す通り、2020年までに住宅も含めて、全て義務化の予定となっています。
適合義務化になるとどうなるのか? と言いますと、「省エネ基準」を満たしていない建物は、「建築確認申請が下りない=建てられない」ということになります。 建物を建てる前に行政に申請を出す「確認申請」の際に、強制的に省エネ計算を提出させられ、内容をチェックされ、省エネでない建物に対しては、建築許可が下りないということになります。
住宅に関してはH32年の東京オリンピックイヤーからとは言うものの、既にフラットやZEH(ゼッチ/ゼロエネルギーハウス)の補助金対象建物の申請では、省エネ計算を行わなければならなくなっています。
さて、この省エネ計算。 具体的にはどういう事かと言いますと、これがややこしいのです。
建築士でも分かっていない人がまだまだ山ほどいるくらい。
建物は外壁や屋根、窓によって、夏の暑さや冬の寒さから守られています。
各部からどれくらいの「熱」が外部に伝わり逃げていくかを、数値化したものを、「外皮熱貫流率」といいます。
壁を構成している、ボードや断熱材、柱など全ての材料のもつ「熱の伝わり易さ」を数値にして、使われている材料によってどれくらい熱が逃げるのかを算出します。
また、冷房時に窓から太陽の熱がどれくらい入ってくるのかを数値化したものが「日射熱取得率」。
夏の場合と冬の場合、どちらもどれだけのエネルギーを使う家なのかを換算することができます。
こういった数値を、地域毎に定められた基準値以下にすることが求められており、ウチはこれだけ夏涼しくて、冬暖かい家なんだよということを、建てる前から計算によって証明する訳です。
前者の「外皮熱貫流率」に関しては、家を布団でくるんでいる「断熱材」の性能を上げることにより、室内の暖房の「熱」を、壁・屋根・窓から奪われないようにする事が出来ます。
後者の「日射熱取得率」に関しては、夏の日差しを遮る「庇」を付けたり、窓ガラスをちょっと高性能な「熱反射ガラス」にするなどして、室温の上昇を防ぎ、冷房エネルギーの消費を削減することが出来ます。
ここまでは家自体の性能。
次は、これらの計算と同時に、「一次エネルギー消費量」というものを算出します。
今度は、
冷暖房設備エネルギー消費量
+ 換気設備エネルギー消費量
+ 照明設備エネルギー消費量
+ 給湯設備エネルギー消費量
+ その他、家電等エネルギー消費量
ー 発電等、創エネ量
の合算値。
この「一次エネルギー消費量」は、先ほどの断熱などの外皮の性能を上げることによって、減らすことが出来ます。
断熱性能が高ければ、冷暖房エネルギーは少なくて済む。
布団が暖かいと、電気毛布は使わなくても良い、と言う具合ですね。
こういった細かい省エネ計算の内容を、住宅であっても算出し、クリアーしたものだけを建てさせようというのが、この法律なのです。
断熱材の性能が高い家しか建てられなくなる、ということは、実は大変な暴挙といっても良いくらいひどい話なんです。
一体なぜか?
断熱材の性能を上げるということは、つまり断熱材が入っていることが大前提ですね。
しかし、建築には断熱材が入っていない建物がたくさんあります。
例えばログハウス。
丸太を組み上げて作るログハウスには断熱材は入っていません。
当然、断熱性能を超高性能に上げましょうと言うことは出来ません。
更に冗談ではないのが、数寄屋や茶室、純和風建築などの伝統建築。
これらは真壁工法といい、柱が室内にも、室外にも露出しており、壁は土塗り壁です。
壁の中に断熱材は入っていません。
こう言った建物は、現状の算出方法では全て行政の確認申請を通すことができません。
日本の伝統建築は全て違法建築になってしまうと言うことです。
これは大変な問題ですよね。
現在、このような建物でも建てることが出来るように、各建築の専門家グループが、政府に提言をしています。
私が参加している勉強会のグループも、地域独自の「気候風土適応住宅」という枠組みを新たに作り出す活動をしています。
丸いために計算が大変なドームハウスでの省エネ計算方法を確立するために参加し始めた勉強会ですが、多くを学び得ることが出来ています。
良い家づくりには、様々な知識や技術が必要とされます。
ドームハウスだから特別ということはありません。
計画、構造、省エネ、と一つ一つ積み上げながら作っていくことが、良い家づくりにつながり、人々を幸せにすることが出来る家につながるのだと思います。