近年、工業製品の普及に伴い、多くの家づくりが既製品の組立行為となってしまっています。 そのため、地域に昔から伝わるすばらしい技術があるにも関わらず、職人達はその腕を発揮する機会すら失われてしまいました。
昔ながらの伝統建築を復活させ、職人の仕事の場を増やすという方法もありますが、幾多もの震災を受け止めなければならない我が国の家づくりに於いて、古い工法をそのまま繰り返すべきでないことは、技術的にも体験的にも明白です。
今、限りある資源やエネルギーを節約し、無駄なく賢く有効的に使いながら、環境にも人にも優しく、且つ、安全に近代的な暮らしができる家づくりが、私たちに求められています。
本建築では、既製品をなるべく使用することなく、「素材の持つ力」を、「職人の持つ能力」により、大きく引き出すことの出来る方法を追求しました。 地域で手に入る材料をなるべく使い、地域で育んできた技術により、人の手でつくる。 以下の多くの試みが、施主や職人達の協力により実現しました。
- 最小限の建築資材で、最大限の空間を作ることが出来、且つ、大震災にも耐えうる大きな構造強度を持つ、「ジオデシックドーム構造」を採用し、現地にて大工の手により製作。 ドーム構造を数センチ大きくしたものを二重に被せるという複雑な工事を行い、屋根通気層も確保。
- 計画的に伐採・自然乾燥した桧を、材木の繊維を破壊しないよう低温乾燥をした構造材を準備。 面材は土に返るエコ系のパネルと、国産桧の合板を使用。
- 室内仕上げは、無垢の杉・桧板張りと、漆喰仕上げ。 漆喰部分の下地には、新建材を使用せず、杉の木摺り。
- 現地で伐採し製材した杉の大木を、曲がり梁や丸太柱として利用することにより、地産地消サイクルを実現。
- 諏訪産の鉄平石を敷き詰めた床下に温水暖房を通し、温めた石から、常に遠赤外線が放出される手づくりの健康床暖房システム。
- ペチカの技術を応用し、レンガで迷路状に煙道を作った蓄熱式暖炉。 朝の数時間、薪を燃やして蓄熱を行うと、翌日の午後までもじわじわと熱を放出し続けてくれるエコ薪ストーブ。
- キッチンや水廻りも含めて、全ての家具を合板を使用することなく無垢板で制作。 取っ手に至るまで手作り。
- 硬い鉄を柔らかくデザインし、鍛鉄(ロートアイアン)細工にて、手すりや格子を制作。 地元職人達の手仕事を多く採用。
これらの試みにより、冬暖かく、夏涼しい、住みやすい家であることは勿論、とてもやさしい雰囲気に包まれる家だとの高評価をみなさんから頂いています。 地域の材料や人の手を有効的に活用したことが、竣工後、施主が住み始めてからも、周辺環境や地域の人々からの恩恵を受けることが出来る家に繋がったのではないかと感じます。
家づくりは物を作ることのみに光が当てられることが多いですが、その家を人が使い始めた後、人がその地域で、新しい環境の中、安全に楽しく暮らす事が出来るような、周辺環境や人との良いつながりや循環を同時に作ることも、大切な要素であると気付かせてくれる家づくりとなりました。