【まえがき】
はじめまして。
ドームハウス専門の建築家 わだたかひろ です。
この冊子には、丸い屋根の家「ドームハウス」の魅力と、その個性的な家に引き込まれ追い求めた主人公の物語が書かれています。
グランピング用の大型テントドームを目にするようになり、ドーム自体めずらしい存在ではなくなってきた為か、木造住宅としてのドームハウスに住みたいと思う人が増えてきています。
私への問い合わせの中には、ドーム本体の計算方法や、専門的な設計手法に関するご質問を頂くことがあるのですが、そういった方法ではなかなか夢のドームハウス生活を手に入れることは難しいと感じています。
私は、十数年前に自宅を実験用ドームハウスとして作り、その後、木造ドームハウスについての研究を続け、ドームハウス専門の建築家として住宅や店舗用ドームハウスを造ってきました。
自宅ドームでの失敗を克服しながらもドームハウスの夢を叶えた者として、家づくり自体が嫌になってしまうような轍を踏んでもらいたくないと願っています。
もし、あなたが「みんなと同じ家は嫌なんだけど…」、「もっと自分らしい暮らしがしたい」、「ドームハウスに住みたい」と感じ、ドームハウスを手に入れる方法を探し求めた結果この本にたどり着いたとすると、それはあなたにとっても勿論わたしにとっても、とても幸運なことです。この出会いに心から感謝いたします。
これまで頂いたお問い合わせの中には、30年以上も前から、何度となくドームハウスに住むことを夢見ながら可能性を探ってみたものの、どうしていいか分からなかったり、正しい方法を提供してくれる人に巡り会うことなく、あきらめてしまった過去を持つ方が多くいます。
この物語は、そんな本気で自分らしい暮らしを夢見、追いかけ、夢のドームハウス暮らしを実現した方のエピソードを元にした物語です。
最後までお読み頂くと、「黄金比を用いて作られた空間で起こること」、「取り去らなければならない家づくりの固定概念とは」、「通常とは全く異なる間取りの考え方」、「ドームハウスに向いてない人とは」等が分かるようになっています。
また建築家との打合せの様子を知ることによって、主人公と共にドームハウスの特徴を学ぶことができます。
ただし、この物語の中には工学的な専門知識や、設計手法、構造計算手法などの専門的な話は含まれておりませんのでご了承下さい。
では、どうぞお楽しみ下さい。
私、「新一:しんいち」は、
昭和33年生まれ 戦後のいわゆるベビーブーマー世代、日本の人口拡大期を生き、激しい企業内での戦いを強いられてきた世代だ。
若い頃は24時間戦う熱血商社マン。会社にひと月も泊まり込みで仕事をしていた程のワーカホリックだ。しかしそんな時代を乗り越えたお蔭で、現在は数万人を率いる会社のトップにまで上り詰めた。
社長に就任してからは、海外転勤がこれ以上ないことが分かり、念願のマイホームを新興住宅地に手に入れた。
助手席に妻の由美子を乗せ、濃紺の愛車のアクセルを少し踏み込む。自宅が近づいてくると、整然と並べられた家の間を抜けて、緩やかな坂を登っていく。家々の前庭には、木や花が多く植えられ、高級感あふれる町並みだ。
私の家は一番奥の広い区画で緑も多く、庭園風に岩や竹を植え込んでいるところもある。しかし…
新しく作られる町の家は、全て同時期に建てられる。時間の経過とともに、全てが一斉に傷んでくるのも避けられない。
十数年の暮らしの中ではあきらめ、忘れかけていたのだが、いざ現職を引退してからの暮らしを考え始めると、その違和感が日に日に大きくなって来る新一だった。
ある日、新一は雑誌の記事を手に、妻には内緒で天井の高い大空間が特徴的な家を作っているという工務店に行ってみた。
新一は図面を持って再度工務店を訪れ、丸めてある何十枚もの大きな図面をダイニングテーブルにドサッと下ろし、テーブルいっぱいに広げて見せた。
営業さんでは全く分からないとのことで、奥から建築士を呼んできた。
50枚を超える図面があるというのに…
新一はだんだんと頭に血が昇ってきてしまい、
新一はイライラしながら説明の途中で出て来てしまった。
周りと同じ家ではなく、自分達らしい個性豊かな暮らし方が気になり始めると、新一は突き詰めなければ気が済まなくなってきてしまった。
時間が取れるといつも1人で探し回っていた「気持ちの良い家」探しだったが、そんなことがあった為とうとうその晩、由美子に打ち明けることにした。
二人は休日に、奈々子の別荘に出かけてみることにした。東京から2時間ほど、トンネルを抜けると雪をかぶった南アルプス連峰が美しい。甲府盆地を過ぎると、右手になだらかな稜線の八ヶ岳が見えてきた。その裾の、標高千メートルあたりに彼女の別荘がある。緩やかな斜面に小ぶりな丸い家が花々に包まれるように建っていた。
これまでのいきさつを、由美子が話し始めた。
奈々子は、それはそうかもしれないけど、と建設を断られたことに対して驚くそぶりもない。
彼女は別荘を設計してくれたという建築家に電話をし始めた。電話の向こうで、その建築家がいろいろと説明しているようだが、どうにも彼女はちんぷんかんぷん。我慢できなくなった新一は、「もういいから、ちょっと電話を代わってくれないか。」と強引に電話を取り上げてしまった。
電話の向こうから
新一は商社マンの経験からとっさに頭の中でプランを組立て、アメリカから住宅キットを輸入し、職人も連れてきて造らせる計画を話し始めた。
わださんは2、3の質問をし、そして即座に答えた。
新一は答えながら、額の冷や汗を拭った。
新一はぶつぶつと言いながら、頭の中でいろいろと考えを巡らせているようだった。
そこまで聞くと、新一は「日本の法律…なるほどそうか。分かった。うん、今日はありがとう。」と強引に会話を中断して電話を切ってしまった。そして「なるほどな。光が見えてきた気がするぞ…」と呟いた。
東京に帰った新一は、八ヶ岳での情報を整理し、会社で懇意にしている大手の設計事務所に頼むことにした。
数週間後、日本でも問題なく建てられる案に改造されたプランが提出されてきた。申請も認可されるとの審査機関のお墨付きも付いている。
と図面を広げて見せてくれた。
新一は、全く異なる設計内容に、『何かが違う、しかし彼らの説明は非常にわかりやすかった。これなら何の問題もなく作れるというのは安心だが、私の求めているものは、これだったんだろうか? 一体なんなんだ?』不安が増すばかりだった。
断られたり出来ない出来ないと言われ続けたことによって、家を建設する事だけが目的になってきてしまい、新一は自分が求めているものがなんなのか、よくわからなくなってきてしまっていた。
新一は悩んでいた。
『これはもう自分でなんとかする、というのは無理かもしれないなぁ。助言を、いや、判断を任せられる専門家が今の私には必要なのではないだろうか。』
新一は大手設計事務所に費用を払い、作ってもらった新案を手にドームハウスの専門家であるわださんのところを再度訪れることにした。
新一は深く頭を下げ、その後の顛末を説明した。
つづく
お願い
ここまでの内容、いかがでしたか?
できましたら簡単なアンケートをお願い致します。
次はドームハウスの良さや普通の家づくりとは異なる考え方、
そしてドームの真髄にせまる内容に入っていきます。
どうぞお楽しみ下さい。
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